第85章 【マドノムコウ】
小宮山のことは、すぐにみんなに「彼女」って紹介したけれど、芽衣子ちゃんをそうする気にはならなくて……
それは、いくら芽衣子ちゃんのお願いだって、裏切った小宮山や桃、それに不二の気持ちを思ったら、とてもそんなことは出来なくて……
「……ゴメン、今日は忙しいし……」
気まずくて目を伏せると、芽衣子ちゃんは少し間を開けて、そうですね、ゆっくり話せないですもんね、なんて言って何でもないように笑った。
いつまでも逃げ続ける訳にはいかないけれどさ……
せめて小宮山と桃が、他のやつと付き合い出すまでは、さ……?
ズキン、胸がいたんでグッと学ランを握りしめる。
小宮山もいつか誰かと付き合うんだろうか……
すぐさま思い浮かぶ不二の顔……
不二じゃなきゃ嫌だって言ったくせに、実際に不二と小宮山が付き合うと想像しただけでこんなに胸が苦しくて……
オレと付き合う前だって、小宮山には香月って立派な彼氏がいて、でももうそいつの事は過去になっていて、きっとオレのことだってもう過去で……
「英二、いい加減にして!、もういいでしょ?、仕事中なんだけど!」
市川の不機嫌な声に我に返る。
あ、ゴメン、忙しいからさ、そう芽衣子ちゃんに謝ると、市川先輩、私のこと、嫌いなのかな……、なんて芽衣子ちゃんがチラッと市川を気にするから、んなことないよん、そう言ってそっと髪を撫でる。
市川は小宮山のことを思って、あんな態度をとっているだけで……
芽衣子ちゃんに怒っているわけじゃなくて、オレに対して怒りを露わにしているだけで……
小宮山も、こんくらいオレに怒りを向けてくれたらいいのにな……
芽衣子ちゃん達に手を振ると、みんな、ゴメーン、そう何事も無かったかのように仕事に戻る。
「イチャつくなら璃音の目の届かないところでやって!ただでさえミスコンなんて派手なことやらかすんだから!」
サッと隣に来た市川がこっそりオレに釘を指す。
……分かってる、そう呟いてからたこ焼きを焼き始めると、明日のミスコンのことを思ってため息をついた。