第85章 【マドノムコウ】
それからはもう大石も何も言わなくて、一緒にテニス部の模擬店に行ってから適当に学園内を回って、あとはクラスの当番の時間になったから、大石とは別れて模擬店に戻ってきた。
戻ってきてからも、小宮山のことが気になって、たこ焼きを買いに来た不二に、あのさ……、そうなんて切り出したらいいか分からずに言葉を選んでいると、英二が心配することじゃないよ、そう淡々とあしらわれて……
全くその通りで、もう何も言えなくて、うん、そだね……、そう返事をするのが精一杯で……
「先輩……?」
突然聞こえた芽衣子ちゃんの声に我に返ると、芽衣子ちゃんは、もう、聞いてます?、そう少し頬をふくらませていて……
あ、ゴメン、ぼんやりしてた、そう慌てて笑顔を作ってペロッと舌を出すと、やっぱり!、そう彼女は呆れ気味に笑った。
「先輩って、案外、ぼーっとしている時間、多いですよね」
「……あー、寝不足かもね、オレ、結構遅くまでネトゲしてたりするからさ?」
クスクス笑う芽衣子ちゃんに気付かれないように、小宮山への想いを笑顔の奥に押し込める。
んで、なんだっけ?、そう言葉の先を促すと、はい、あのですね、なんて芽衣子ちゃんは少し声のトーンを落として続けた。
「先輩、今日は大石さんが来てるって言ってましたよね?」
芽衣子ちゃんのその質問にハッとして顔を上げる。
へ?、あ、うん、そうだけど……?、なんて視線をそらして答えると、じゃあ!、そう言って彼女は、ぽんっと顔の前で両手を合わせて首をかしげる。
「今日こそ紹介してもらえませんか?、先輩の大切なお友達ですもん!、あと、テニス部の人たちにも……」
そ、それは……、思わず口ごもる。
芽衣子ちゃんは、今までも何度かオレの仲間達に挨拶したがっていて……
でもその度に、また今度ねー?、そう適当に誤魔化して、そのお願いをやり過ごしてて……