第84章 【ホントウハ】
「あの、それって____?」
「市川、小宮山を保健室に連れてってよ、オレ、模擬店に戻るからさ……」
「う、うん……」
私の問いにはもう英二くんは答えてくれなくて、美沙にそう私のことを頼むと、ゆっくりと手首を離して戻っていく。
璃音、行こ?、そう促してくれる美沙に、はい、なんて頷きながら、まだ英二くんの温もりがはっきりと残る手首に触れた。
保健室に向かいながら、こっそり英二くんの向かった先に視線を向けると、彼は私の失敗したタコ焼きを1つつまんで、躊躇うことなく口に運んでいて……
「お前、よく食えるな……つうか、いいのかよ、ミスコン始まんだろ?」
「まだダイジョーブだって、それより新しいタコ焼き焼けた!?」
みんなの中心でテキパキ動きながら、英二くんはさらにもう一つ、頬張っていて……
あんなの、1つだって、すごく辛いはずなのに……
やっぱり英二くんは、私の作ったもの、食べてくれるんだね……
「……ね、璃音……」
保健室で私の手当てをしてくれながら、ずっと黙っていた美沙が口を開く。
器用に巻かれて行く包帯を眺めながら、はい、そう小さく返事をする。
「英二ってさ……本当はまだ、あんたのこと……」
ピクッと私の手首が跳ねる。
私のその様子に、ううん、なんでもない、そう美沙は言葉を飲み込んだ。
コンコン
保健室のドアをノックする音が聞こえ、はい、そう美沙が返事をする。
失礼します、そう言って入って来たのはお母さんで、まさか来るなんて思っていなかったから、お母さん!?、なんて驚いて声を上げる。
そんな私にお母さんは呆れたように笑い、美沙ちゃん、ありがとうね、そう美沙にお礼を言った。
「大丈夫……?、出来ないくせにたこ焼きなんて焼くからよ?」
「……クラスの人たちに聞いたの?」
「ううん、せっかくだし見に来たら、璃音、男の子に腕を引かれてて……、大体のことはその惨状を見ていれば理解できたわ……」
あの子が英二くん、なのね……、そう呟いたお母さんはゆっくりと窓辺に移動して、それから外に視線を向けた。