第84章 【ホントウハ】
「英二くん……璃音の失敗したたこ焼き、ロシアンたこ焼きにしてくれていたわよ……周りの子たちにいくらミスコンに行けって言われても、まだ大丈夫だって最後まで売り切って……」
窓から外を眺めると、そこからはメインステージがよく見渡せて……
ちょうど息を切らして駆けつけた英二くんが、ステージに飛び乗り、彼風のやり方で鳴海さんをエスコートしていて……
お母さんは、今、どんな気持ちであの2人を見ているんだろう……?
真っ直ぐにステージの上を眺めるお母さんの表情からは、その心の中までは見ることができなくて……
それどころか、私自身、英二くんの気持ちも自分の気持ちも、なにもかもが分からなくて……
「英二ってさ……本当はまだ、あんたのこと……」
先ほど、美沙が口にしかけてやめた言葉……
あんなふうに助けてもらったら、その言葉の先を、どうしても期待してしまう自分がいて……
でも、そんなはずないって、何度もそれを否定して、でもやっぱり、そう思わずにはいられなくて……
英二くん、どういうつもりで私のこと、何度も助けてくれるの……?
混乱から、またハラリと涙が零れおちる……
「……カーテン、閉めようか?」
「ううん、平気です……」
私のことを気遣ってくれる美沙に、ゆっくりと首を振ってそのまま窓の外を眺め続ける。
『グランプリはエントリーナンバー5番!、鳴海芽衣子さん!、ミス青学、おめでとうございまーす!』
華やかなステージの上、大勢の人たちに祝福される中、鳴海さんが英二くんに嬉しそうに笑いかける。
そんな鳴海さんの肩に手を置いた英二くんは、こちらの方をジッと見ていて……
こんなに遠くじゃ、私のことなんて見えるはずないのに、それはまるで視線が絡み合っているようで……
散々、目が合うのすら拒否してきたのに、今はその視線をそらしたくなくて……
英二くんが鳴海さんの呼びかけに応じて彼女を見るまで、ずっと彼の姿を見つめ続けた。