第2章 アルスラーン戦記短編*ハロウィン
「殿下似合いすぎですよっ!」
「私のカボチャだっていけてると思いますが」
口々にアルスラーンへの賞賛を口にすると(約1名除く)、本人は気恥しそうにありがとう、と答えた。
お披露目会になる中、カナヤだけが作った衣装を出そうとしない。
袋をのぞき込んで困った顔をしているのだ。
「カナヤは?確か魔女だったよねぇ?」
「あ、うん、やっぱりやめよっかなぁ、なんて…あっ!」
言い終わるや否や、後ろからギーヴに取り上げられてしまった。
絶望したように両手で顔を覆うカナヤの耳には、悲痛な評価が下される。
帽子らしき物はてっぺんに大穴が空き、マントは何故か継ぎ接ぎ。黒いワンピースになるはずのソレは、手足が出る場所がなくまるで袋のようになっていたのだ。
「これは……なんとも酷いもんだねぇ」
「ボロ雑巾でしょうか?」
「エラム!もうちょっと言葉を選ばないと!…私が思うに、その、独創的だな」
「言葉を選びすぎてまるでフォローになってないな」
口々に言われて完全に涙目のカナヤを慰めるように、ギーヴはポンポンと頭を撫でる。
「器用貧乏なカナヤ殿が唯一本当に苦手な物だったのですな。なのに、一所懸命皆のために…」
優しく手を握ると、その指には至るところに差し傷や切り傷があり、苦労を思わせた。
「ううん、めんどくさいだのなんだの言っても、私は皆が喜んでくれるのが嬉しいんだ。だからやってみたんだけどね。やり直すにしても、今からだとちょっと間に合わないかな…はは」
眉尻を下げてしまうカナヤに、私がなんとかしましょうとギーヴは言うと、失敗作を袋に詰め直して部屋を出ていってしまった。
「大丈夫だろうか…」
「ああ見えて手先も器用ですし、大丈夫でしょう」
「エラムの言う通りだよ、さあ今日はもう寝るとしようよ、ね、カナヤ」
落ち込んだカナヤの肩を組んで、アルフリードは部屋を出る。それを見送るとエラムとアルスラーンはやれやれとため息を吐いた。
闇にまぎれて、その様子を影から見ていた者がいる。
銀の仮面を月光に反射させてククッとほくそ笑んでいた。