第2章 アルスラーン戦記短編*ハロウィン
「で、その仮装をしてお菓子を要求し、拒否されればイタズラをするという事ですね」
「そうそう。どう?やってみない?」
少し考えると、エラムは仕方が無いとばかりに承諾したのだった。
意外ではあったが、カナヤには承諾した理由がなんとなく分かってしまい引きつった笑いを漏らす。
「おやおや、なんだか楽しそうですねぇ」
窓からひょっこり顔を出したのはギーヴだ。
身軽に身体を翻すと、カナヤの前に片膝をついて恭しく手を取る。
「カナヤ殿、今日も御機嫌麗しゅう」
「昼も会ったばっかりじゃん」
「今日も無駄にキラキラさせてるねぇ」
辛辣なツッコミにも奥さずにハハハと笑うと、今しがた話している内容を詳しく聞いてきた。
「ふむ、なるほど。異国文化とはいえ、なかなかに面白そうだな。どれ、私も混ざってみようか」
「ギーヴも賛同してくれるか、これは心強い!」
ポンと膝を叩いて嬉しそうに笑うアルスラーンに、敵わないなぁと思ったカナヤだった。
仮装するにも色々と準備がいる。
かぼちゃをまるごとであったり、狼や魔女の格好の為にはそれなりに生地も必要で時間もかかる。
いかに気づかれずに仕上げるか、4人改め5人は、密談で夜も更けていくのであった……。
「……おかしい」
「はい?何がですか?」
「カナヤが最近妙によそよそしいのだ。いや、それにしても殿下までもソワソワしていらっしゃる」
「はあ」
鍛練していた横でそれに倣っていたジャスワントに、最近の妙な空気について話し始めた。
「夜毎、殿下はカナヤの部屋に行っておられるようなのだ。問いただそうとすると、何故か邪魔が毎回入ってな」
眉間にシワを寄せてそう言うと、不意にジャスワントへと剣を振るう。
「…ッ、何があったかはわかりませんが、そんなに心配なさる必要はないのでは…ハッ!」
続く第二撃を短剣で受け止めるジャスワントは、腕に痺れを感じていた。
相変わらず、いや、日を重ねるごとに剣の重みが増していて、ダリューンのマルダーンフ・マルダーンの称号を改めて認識させられたのだ。
ギリ、と刃が擦れると、ジャスワントは後方に飛んで距離を取る。
「これまでも長く、共に歩んで来られたのでしょう?信頼なさってもいいのでは?」
呆れたように、諌めるようにそう言うと、彼はその場を後にした。