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第2章 アルスラーン戦記短編*ハロウィン


ふわふわとした白い尾っぽを揺らして、息を切らして現れたのはアルスラーンだった。

「アルスラーン殿下!」
「しっ!ほかの者に見つかってしまうではないか!」

カナヤは両手で自分の口を慌てて塞ぐが、はたと気付いて片手だけマントをしっかり身に寄せる。
こんな姿を見せるわけにはいかない。

「振り向いたらおぬしがおらぬから、慌てて戻って来たのだ。…ああ、引っかかって動けなくなっていたのだな」

こくこくと首だけで返事をすると、なんとか外そうとする。
引っかかっているというより、最早完全に刺さっているというか絡んでしまっているようだ。
ええい!と声にならない気合を入れて、一気に外しにかかるアルスラーン。

が。

ビリビリビリ!!

嫌な音を立てて
マントは綺麗に半分に裂けてしまった。

「!?」

ぶあっと広がるマント。
必死に隠していたその姿が、スローモーションでアルスラーンの瞳に映る。

「…ーッ!!」

普段の姿からは想像だにしないカナヤのあられも無い格好は、アルスラーンのような少年には刺激が強過ぎたようで、グラッとそのまま後方に卒倒しそうになる。

間一髪、アルスラーンの腕を引っ張ると、カナヤの胸に崩れてしまったのだった。

(恥ずかしいし動けないし、散々なんだけど。ギーヴ許さない)

マントを引っ掛けてへたり込んだその場所にまた座り込むハメになって、ギーヴへの恨み言を心で唱える。
ふとアルスラーンを見ると、その頬が胸に密着して暖かい。
普段なら感じることがない肌の温もりに、羞恥より嬉しさの方が込み上げる。

(よしよし)

白い耳をつけた頭を何度も撫ぜ、彼の顔をまじまじと見つめる。
月明かりに映った髪がとても綺麗で、長い睫毛はとても男の子には見えない。
早くその瞼の奥を見たくて、そっと声をかける。
しかし起きる気配がない。

(はぁ、もう。拷問だよこんなの)

アルスラーンはいずれ国王になる人だ。
いくら仲間になろうとそれ以上は望めないし、望んではいけない気がした。
こんなに近くにいるのに。
切なさも相まって、少し泣きそうになる。

─起きないなら、少しだけなら、いいよね?

自分に言い聞かせるように頷くと、その頭頂へと軽く口付けをした。
暖かい、アルスラーンの匂い。

「好き、だなぁ」

離れるのが惜しくて、顔をそのまま埋める。
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