第2章 アルスラーン戦記短編*ハロウィン
イマイチ真意を把握しかねるカナヤに痺れを切らしたダリューンは、胸元に抱えたマントを剥ぐとベットへぐっ、と押し倒した。
「こういうこと、だ。その格好も殿下の為のものなのだろう?」
手首をベットへ縫い付けるように力を込める。
両腿の間に差し込まれたダリューンの膝のせいで、逃れることが出来ない。
見つめた琥珀色の瞳には、何故か怒りが宿っている気がした。
……目が、離せない。
絞り出すように苦しげに、ポツリポツリと、事の経緯を詳らかにしていく。
なんて馬鹿げているんだろう、楽しむはずか、こんなことになるなんて。
事の一端の張本人に恨みの念を込めながらカナヤは話終える。
ダリューンが手元に目をやるとなるほど、手先の至るところに切り傷差し傷が残っていた。一気に力が抜けたダリューンは、頭を彼女の首元に埋めてため息を吐く。
「はぁ……くだらない」
「ごめん、なさい」
眉を下げて詫びるカナヤは、今にも泣きそうに声が震えている。男にいきなり押し倒されたのだ、怖くなって当然だろう。
しかしダリューンは、すり寄せるように頬を彼女の耳元へと近づけると、その匂いを確かめるようにして鼻をスンと鳴らす。
「いや、俺も悪かった、くだらないのは俺の方だ」
「ん…くすぐったいよダリューン」
肩に唇の感触がして、カナヤは思わず身じろぐ。
いつもより近く聞こえるその声がやけに色をおびているようで、ダリューンの背がぞくっと痺れた。
「俺はてっきり、カナヤが殿下のものになっているのかと勘違いして…みっともないな」
それは、
「…やきもち?」
にわかには信じ難いダリューンのその言葉に、半ば期待を込めてそう聞くと、抑えていた両手首を離して彼女を抱きしめた。
「俺も焼きが回ったな。どうやらお前の言う通りらしい」
自由になった手でカナヤはダリューンの頭を優しく撫ぜると、ぎゅっと抱きしめ返す。
なんだか、すごくたまらない。
いっそ秘めた気持ちを伝えたくなるが、なんだか今のままがとても楽しい気がして、勿体なくて口に出すのが惜しい。
「仕方が無いなぁ、焼きが回ったならダリューンの貰い手がないよね。そうなったら私が貰ってあげるよ」
「それは心強いな」