第10章 求めるもの
はじめは少し遠くからザワザワとした感じがする程度だった。
ここはお香さんに紹介してもらった衆合地獄にある宿屋。まぁ、そういう所と言えばそういう所なんだけど、家に帰るよりは別に良いかと思い、端の方の部屋を借りている。
ドスドスドスドス
音が響く。
なんなんだろう…?
足音……?
別の部屋からの音というよりは明らかにそれは廊下から聞こえ、どんどんと近づいてくる。
えっうそっ…
ちょっとこれ……
トントン!!
軽いけれどしっかりとしたノックの音が鳴る。
えっ?!
ここ???私?!
思わず布団にくるまり息をひそめる。
こわいこわいこわい…
私無理なんだってこういうの…
トントントントン!!!
再びノックが響く。
おちつけ、ここは地獄だ。
幽霊は出ないっていうか私も死んでるし…
勇気を出してゆっくりとドアに近づく。
「……っはい…」
鍵を開けドアを開くと、瞬間、腕を掴まれた。
「……っ!」
「さゆちゃん!!」
のけ反った体を引き寄せられ、その胸に収められたかと思ったら、よく知る声と薬材の香り。
「…………白澤さん…?」
「さゆちゃん!あのね、聞いて…」
「はぁ〜〜〜〜…」
「えっ」
大きくため息をつきながら思わずその場にへたり込んだ。白澤さんが心配そうに顔を覗き込むんでくる。
こんの………
思わずガッと白衣の襟首を掴んだ。
「バカ神獣!!!!あんなドスドスこないでよ!!!めちゃくちゃ怖かったじゃないですか!!!!」
「え?あ、ごめん…?」
睨みつけるとそっと背に手を回され、ぎゅと抱きしめられた。
「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。僕だから、安心して。」
優しく頭を撫でられる。
白澤さんだと分かった今でも胸がバクバクいっている。まじこれトラウマになりそう……
トクン、トクンと、白澤さんの心音が聞こえてくる。
こうしていると確かに安心するな……
………………
ってちょっとまて!