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距離感がおかしい

第13章 愛しい人へ(後編)











何度。




何度言いかけただろうか。

無意識に声に出しそうになったそれを、

何度飲み込んだことだろうか。




ようやく言葉に、音にできたことで、口の中が軽くなったような気分なった。


ゆっくりと彼女の頬へ伸ばした手は払われることはなく、予想外にも彼女の手が優しく添えられる。


「嬉しいです。ありがとうございます。でもごめんなさい。私、好きな人がいるんです。」


柔らかく、優しく笑う彼女は、まっすぐと私の目を見てくれていて、それはどこか潤んでいるようにも見えた。


「…やっぱりバレてましたか…?」

「なんとく。」

「……なにぶん初めてなもので。」


こういう思いは。




同じ様に彼女の目を見つめたままそう言えば、目を閉じ、愛しそうに、頬に触れている私の手に擦り寄る。




「……どうして貴女が泣くんですか…」

「……わかりません…わかんないけど…嬉しいんです。鬼灯さまが、言葉にしてくれた事が。」


ふただびまぶたが開いたことで、二筋目の涙が彼女の頬を走る。



その目が

触れる手が

涙が

声が

全てが私に熱を与える。







「さゆさん」




貴女を困らせてしまうかもしれない。


貴女を苦しませてしまうかもしれない。


それでも、たまにでいいんです。


白澤さんや他の人の前では極力我慢します。


だから、本当にたまにだけ





「また愛を伝えてもいいですか?」





初めて、人を愛する感情を教えてくれた


愛しい人へ























「喜んで」





ふわりと笑うその笑顔は、やはり強く、胸を締め付けた。











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