第12章 愛しい人へ(中編)
「お礼…本当にこんなので良かったんですか?」
「ええ。私には大切な事なので。」
彼と引き合わせた事と、まだ先の事ではあるが刑の立会いのお礼として、何かをさせて欲しいと言ってきた彼女に要求したのは、再びあの湖の綺麗なところで連れて行ってもらう事だった。
「この間はちょっと惚けていて、道を覚えていなかったので。」
「なんだかお疲れでしたものね。でも、気に入っていただけてよかったです。」
隣を歩く彼女の髪が歩くたびにふわふわと揺れる。
というのも、あのときは気づかなかったがコレが結構な獣道である故だろう。
「どういう経緯で見つけたんですかこの道…だいぶスゴイですね…」
「前に桃太郎くんと天国探検をしてたときに。まぁ迷子になってたまたまですけど。」
「さゆさん、割とやんちゃですよね。」
会話が終わったところで道がわっと開けた。
そこは相変わらず時間が止まっているようで。日に照らされキラキラと輝く湖は、ついた!と嬉しそうに明るくなる彼女の瞳と似ている。
「さゆさん。ありがとうございます。」
「いえ。お礼を言う方は私の方ですし。」
柔らかく笑う彼女はこちらへ体を向けると、ゆっくりと、深く、頭を下げ、その黒髪はサラサラと流れ落ちた。
「改めて、ありがとうございます。鬼灯さま。ずっと、考えるのをやめていたけど、直接、彼にお礼を言ったとき、私の知らない彼の人生を知れたとき、本当に嬉しかった。やっと、生きていた頃の私がちゃんと死ねた様な気がしたんです。」
ありがとうございます。と微笑む彼女はその声を震わせる事はなく、静かに一筋、涙を流す。
「………彼が望んだからですよ。」
彼の罪を調べて、事を知ったとき、私はどうしていただろうか。恐らく、少なくともこんな風に再会させる事はきっとなかった。
だから彼らの再会は、彼が、彼女が、心から愛し合っていたからこその結果なのだろう。
それに
「それに、お礼を言うのは私の方ですよ。」
おかげでようやく。
私も気持ちの整理ができた。
「さゆさん。好きです。愛しています。」