第11章 愛しい人へ(前編)
「というわけなんですが。」
「いやというわけじゃなくて!端折るなよ!ちゃんと言えよ!!」
正直気が重いし説明が面倒だが、仮にも現さゆさんの恋人である白豚にはきちんと説明をしておこうと極楽満月へとやって来ていた。
これは彼女があの男に会う上で通しておかねばならない筋であろう。
「単刀直入に言います。さゆさんの現世での恋人が、亡くなって今地獄にいるのですが、さゆさんに会いたいと言っています。」
「え…っ」
「しかもその男がさゆさんを死に至らせた原因である可能性が高いです。というかほぼ黒。」
「はぁ?!」
はじめはぽかんと聞いていた神獣も、さすがに語りと立ちがり、桃太郎さんに至っては持っていた薬草をドサドサと床に落とす始末。
まぁ、そうなりますよね。
「ちょ…えっ待ってどゆこと?」
「話せば長いので、それはまた後で彼らが面会するときに浄玻璃の鏡で確認してください。」
「まって、お前話が早いんだよ!!面会させるわけないだろ?!」
「彼女がそれを望んでても?」
ピクリと眉をひそめる神獣は荒がる息を整えるように深く呼吸を始める。
「…彼女にはまだ、その男が地獄にいる事は伝えてはいません。ですが、もし会えるなら話をしたいと、そう言っていました。」
「……で、僕の許可を取りに来たと?」
まっすぐとしたつり目がこちらを見据える。
この時ばかりはさすがは神といった面持ちで、こちらを真剣に見定めているようだった。
「貴方次第です。」
「……分かったよ。」
思いの外、早いその返事に思わず目を見開く。
「さゆちゃんが会いたいって言うなら、つけたい蹴りもあるんだろうし。いいよ。」
ましてただし僕も立ち会うから。と淡々と語る。
「いいんですか…?」
「仕方ないだろ。コレは彼女の事だ。それに、彼女の事、信じてるから。」
彼女を信じるとハッキリと口にした神獣は堂々としていた。
白澤さんは彼女がその男のために命を捨てたコトを知らない。それでも、目の前にいる男はそれを知ってても同じコトを言ったであろう。
それが、正直羨ましく思えた。