第11章 愛しい人へ(前編)
「髪がない……!!!!」
「髪はあります。」
現世での視察が終わり、お土産を渡そうと極楽満月へと足を運んだところ、目があった想い人からの第一声がそれだった。
「えー!切ったんですか?いつのまにー?」
「ていうかなんで来てんだよ用がないなら帰れよ!」
ぱぁっといつもより1.5倍くらい可愛らしい顔で興味津々と言わんばかりに近づいてくるさゆさんと、一応その恋人である白澤さんの表情は言うまでもなく対照的だ。
「用ならあります。コレ、昨日まで現世に行ってきていたので、お土産です。」
「あーこれ!!!私が好きなやつ!!現世でも売ってるところ少ないのにありがとうございます!!」
「いえ。」
お土産のお菓子を受け取り、嬉しそうに笑うその姿に思わずこちらの口元も綻ぶ。
以前に雑談した時に聞いた話を頼りに頑張って探した甲斐がありましたね。
「ほら、渡すもんわたしたろ?帰れ帰れ!」
「普通に腹立つんでやめてください。言われなくても帰りますから。」
「いってぇ!」
「えっもう帰っちゃうんですか?!」
ちょっと頭にきたので金棒を軽く白澤さんの足にぶつけると、それをシカトしてさゆさんから聞こえてきた声は予想外の言葉だった。
「えっさゆちゃん僕今こいつに足殴られたんだけど…」
「あ、痛そう…大丈夫ですか?」
「遅いよ…」
さゆさんは白澤さんに肩を貸すと近くの椅子に座らせる。私においては言うだけ言ってまさかの放置。
前々から思っていたけどこの人も大分自由人な気がしてならない。