第14章 魔法が解ける時間
[美琴]
しばらく、勝兄さんと話をして、飲み物を取ってきてくれると、勝兄さんが席を立った。
私は、窓に広がる夜景を見ていると、また人影が私の後ろに立った。
「お兄ちゃん?」
振り返ると、振り袖を来た私と同じぐらいの年頃の女子が立っていた。
私は立ち上がって、お辞儀をする。
「あの、こんばんは。」
「こんばんは、貴女、西園寺美琴さんでしょ?私、鳳凰院香澄です。宜しく。」
「ぁ、はい。宜しくお願いします。」
私は突然現れた香澄さんに、戸惑い眉を下げると、香澄さんは腕を組んで、私を下から上まで見て、微笑んだ。
「貴女のお家は、海外でお仕事されているとお聞きしました。私の家は、旧家の家なんです。全然違うんですね、私たち。
でも、仲良くしてくださいな?
私も、来週から洛山高校へ編入するの。……何故だか分かる?」
「あの…?」
私が困って首を振ると、香澄さんが口許に笑みを浮かべ、教えてくれる。
「私も貴女と一緒。赤司征十郎さんの婚約者の一人として、お試し期間でいくのよ。」
私は頭が真っ白になり、思考が停止した。
「どちらが征十郎さんに選ばれるか、今から楽しみね。では、また来週。」
香澄さんは、軽く会釈をして、私の前からいなくなってしまった。
私は、力なく座っていた椅子に腰を下ろした。
私は、婚約者の一人。
候補者だって、分かっていた。
なのに、赤司さんの優しさに包まれて、その事を忘れていた。
『私、赤司さんにとって、婚約者の一人でしかないんだ……。』
悲しい気持ちが胸を圧迫する。
私は、泣きそうになって会場を出ようと立ち上がると、勝兄さんとぶつかった。
「美琴?どうしたんだ?」
私の顔を見て、眉を寄せてしまった兄を見上げて、私は、必死に笑う。
「ちょっと……気分が悪いだけなんです。」
震える指先を兄に見咎められないように、目を瞑る。
「…俺も、挨拶は済ませたし、自分の部屋に引き上げようと思ってたんだ。
美琴もおいで。ちょっと話をしよう。」
優しく肩を抱かれ、私は会場を後にした。