第12章 魔法な時間 いざ出発!
[征十郎]
2人きりの車の中、俺はどうしていいか分からず、窓ガラス越しに、美琴を見ていた。
さっき、少し話は出来たけど、会話がまたなくなって、俺は流れる景色を見る。
繋いでいる手が暖かい。
いつもその長い髪は、部活時以外は、下ろされていて、今日の様に、うなじが出るほど上げられているのは、見たことがない。
細い首、白いうなじ。
ピンクのドレスの胸元が、綺麗なデコルテを引き立たせている。
括れた腰に、ふわりと広がるドレスの裾は、彼女の膝の長さで、細い足首が、クリーム色のヒールが似合っている。
それに、目。
いつも眼鏡に守られた眼が、今日は何もつけていない。
直視する彼女の菫色の目は、アメジストの様に優しい光で、俺の中の衝動が高まるのを感じる。
「そのドレスは?ご実家から?」
俺は、スカートの花の細工が素晴らしい、そのドレスに目を向ける。
「いいえ。昨日、優希と一緒に買いに行ったんです。
そのお店は、とても素敵な人が店長さんで、どのドレスもとても綺麗で素敵だったんですよ。」
嬉しそうに語る美琴に、微笑みながらうなずく。
「その後、色々な小物を揃えて……。楽しかったです。」
「そう。それは良かったね。」
あまり饒舌とは言えない美琴が、こんな風にしゃべるというのは、よほど楽しかったと見える。
「今度、俺にも案内してくれないか?」
「え?でも…、女性用の取り扱いしかないようでしたけど…?」
困った顔をする美琴に、俺は、微笑して、話を続ける。
「そのドレス、凄く似合っているから、他にも似合うものがあれば、買って上げたいと思ってるだけだよ。」
「そんな!!いりません。………でも、とても素敵なお店なので、お時間があれば覗きに行きましょう。」
そういって彼女の眼が優しく揺れる。
俺は、彼女の唇に指を這わせて、微笑む。
「ぁ……。」
美琴と俺は見つめあっていると、車は静かにホテルの駐車場へ入っていった。
俺は、彼女の唇から指を離し、組んでいた足をほどく。
「…征十郎様。」
「あぁ、開けてくれ。」
運転手は俺を見ずに、命令をあおぎ、俺は、赤司の後継者として、返事をした。