第9章 テスト前の勉強会
[美琴]
私の横に、赤司さんがいる。
右腕が、触れるか触れないかの距離。
意識しないようにすればするほど、教科書の文章が入らない。
『…ドキドキして、全然頭が回らない…。』
ふうと息を吐いて、眼鏡を押した。そして、少しでも進めようと、辞書をペラペラとめくった。
私は、英語・ドイツ語の授業に馴れていて、国語・古典が思っていたより難しい。
でも基本、勉強が好きなので、分からないことが楽しくてしょうがなかった。
教科書に線を引き、メモをする。
辞書を引いては、ノートに書き込んだ。
カリカリカリ
ペラ
カリカリカリ
しばらくすると、私のノートに付せんが貼られた。
ペタッ
〔そろそろ、閉館の時間だ。帰ろう。]
私は顔をあげ、赤司さんを見た。
赤司さんは、自身の腕時計を指でトントンと叩き、笑ってくれる。
私は、彼の時計を見て、こんなに時間が経っていたと、驚く。
赤司さんに頷き、机の上を片付け始めた。
一緒に図書室を出て、並んで廊下を歩き始めた。
「遅くなってしまいましたよね、すみません。」
私は、いつも忙しい赤司さんに恐縮して、頭を下げる。
「謝らなくていいよ。勉強は捗った?」
「はい。…でも、まだまだですね。日本人なのに、母国分野が苦手だなんて。」
「しょうがないさ。君はずっとドイツにいたんだから。」
赤司さんは、優しい微笑みで気遣ってくれた。
その微笑みを見て、私は優希が教えてくれたことを思い出す。
『赤司さんは、…キセキの世代だって、優希が言ってたな。10年に1人の天才って……。」
私は、隣を歩く赤司さんを盗み見た。
私は、彼のプレーをまだ見たことがない。
男子部の練習試合には同行できないし、滅多なことでは、彼自身が試合をすることもない。
練習も、彼が軽くドリブルしているところぐらいしか、見ていない。
どんなプレーなんだろう。
自分の知らない赤司さん。
もっと、彼を知りたいなと、思いながら、一緒に寮への道を歩いたのだった。