第5章 春の日の散歩 [後編]
[征十郎]
日が傾いて、少し寒くなってきた。
俺は、彼女の手を引いて寮へ帰る、帰り道。
彼女の指先が徐々に冷たくなっていくのを感じる。
「タクシーを止めようか。」
「え?あ、いえ。あの…。」
「ん?」
「もう少し、このままじゃ駄目ですか?…あ、あの、もうすぐ着きますし。」
彼女は、頬を赤くしていた。
俺は彼女の手を、グッと引いて、自分へ引き寄せると抱き締めた。
「…やっぱり身体が冷えてる。早く寮に帰って暖かくしたほうがいい。」
彼女の顔は、とても驚いていて、菫色の瞳が見開かれていた。
「また、一緒に出掛けよう。」
そういって、引き寄せられるように、彼女へキスをした。
「んっ!」
彼女の目が驚きで見開かれた。
「…急ごう、風邪を引いてしまうからね。」
彼女から腕を放し、手を取って寮へ急ぐ。
彼女の手が、ポカポカしているのを感じて、笑みを浮かべてしまうのだった。