第5章 春の日の散歩 [後編]
[征十郎]
「すごいわ…。こんな景色初めて。」
俺は、彼女を清水寺に連れていった。
彼女は、清水の手摺に掴まり、桜満開の京都の町を眺めている。
時々吹く風に、髪の毛が揺れた。
「…いい眺めだ。」
「赤司さんはよくここへ?」
彼女は風に流される髪を片手で抑えながら、俺の方を見る。
「いや、実は初めてなんだよ。」
「え?」
「基本、休日は部活の練習か、乗馬に行ってることが多いからね。」
「…馬に乗られるんですね。」
菫色の瞳が大きくなる。
「あぁ。馬に乗っていると、無心になれるからね。…今度、時間が出来たら、俺の馬に紹介するよ。」
「…楽しみにしています。」
そう言って、彼女は微笑み、この風景に向き直った。
何か嬉しいことがあったのか
楽しそうだ。
俺も、彼女の横に立ち、手摺に掴まる。
確かに、清水の舞台は桜が満開で、綺麗だった。
「すみません。写真を撮って頂けませんか?」
二人で京都の町を眺めていると、後ろから老夫婦が、写真を撮ってほしいと言ってきた。
「いいですよ。」
俺は、おじいさんからカメラを預かり、距離をとった。
彼女も僕の傍にきて、老夫婦に手を振って、笑顔を作るよう言っている。
「では、撮ります。」
俺は、シャッターを切った。
2枚ほど撮って、彼らにカメラを返すと、彼らは俺たちも撮ろうかと言った。
俺たちは顔を見合せ、苦笑する。
「カメラ、持ってきてないので、大丈夫です。ありがとうございます。」
彼女が微笑みながら、老夫婦に断りの言葉を口にした。
そして彼らと別れて、俺らも清水寺を後にした。