第28章 夏合宿 ③海と山でトレーニング
[美琴]
ザァーーーーー……
ザザァーーー……
汐の匂いと、波の音。
夏の始まりの海。
私は、みんながランニングしている間、ドリンクの補充と、タオル・アイシングスプレーを用意する。
サーーーーー……
すると、爽やかな風が、私の編み上げた髪の後れ毛を揺らした。
私は、口に入ってこようとした後れ毛を耳に掛け、海を見る。
ザァーーーーー…
ドイツにいた時は、海に行く機会もなく、こんな風に浜辺でゆっくり、波を感じることもなかった。
私は立ち上がって、目を細め、深呼吸をする。
そして、宿のロビーでのことを思い出した。
「征十郎さん……。」
さっき、久しぶりに征十郎さんに会った。
水着の話なんて、優希がするから恥ずかしくて、会話もしないまま出てきちゃったけど…
チェスの後、めまぐるしい日々の行事に、征十郎さんと会うことも、話すことも出来なかった2週間。
沢山の友達に囲まれて寂しくはなかった…だけど…
やっぱり…
「会いたかったんです…。」
波の音に消される程の小さな呟きが、私の口からこぼれて、そんな自分に驚いて手で口を塞いだ。