第21章 弱気な夜に
[美空]
甲子園へ来て、今日で1週間。
野球部は、3回戦まで順調に勝ち進んでいる。
私は、夜、ホテルの部屋で昨日撮った写真の編集をしていたら、携帯が鳴った。
『涼太?!』
私は、携帯をもって慌てて外へ飛び出した。
そして、通話をタッチする。
「涼太。」
《美空っち、…今、大丈夫?》
少し掠れた涼太の声に、引っ掛かりを感じながらも、今いる場所から、移動することを考える。
「待って。今移動するから。」
携帯をもって、小走りでホテルの中庭に出た。
「…もういいよ。」
《…………》
「…涼太?どうしたの?」
いつもなら、真っ先に今日あったことを報告してくれるのに、涼太は中々しゃべってくれない。
そして、
《…美空っち、傍に来てほしいっス。》
「…何かあったの?」
『いつもと違う。どうしたの?』
涼太へ、少しでも私の心が届くようにと話すと、
《明後日、青峰っちと対戦なんス。
…俺、勝ちたい。負けたくないっ。……だけど……自信がないんス。……海常のエースとして、チームを支えられるか……。》
涼太の声が、静かに語る。
初めて知る、涼太の恐れの感情。
私は考える。
バスケ部には、たくさんの部員たちがいて、みんな一生懸命練習してて。
そしてその中で、誰よりもチームのことを考えている、笠松くんを思い出した。
「…チームを支えるのは、笠松くんに任せて、涼太は全力で力を出し尽くして、勝って。だって、エースはチームを勝利に導く人でしょ?」
《美空っち。》
涼太の声がする。
あぁ、なんで今、一緒にいられないんだろう。
涼太を、抱き締めてあげたいのに。
私は、切ない気持ちになって、携帯を持つ手が震える。