第20章 長距離電話
[美空]
一回戦快勝。
今年の野球部は、本当に調子がいい。
私は、甲子園球場の1塁アルプス席から構えていたカメラを片付ける。
帽子の下が、蒸れている。
ふぅーーー暑い。
帽子を脱いで、ポニーテールを揺らす。
汗で、顔に張り付く髪をタオルで拭った。
関東の夏も暑いと思っていたけど、こっちの夏は空気が暑い。
熱気が身体を包んで、逃げ場がない感じだ。
「卯月センパイ、宿戻りましょう。」
甲子園に一緒に取材に来た2年の女子と一緒に、球場の出口へ移動する。
「おっ!君たち、めっちゃカワイイやん♪」
「わしらと、ちとお茶せーへん?」
球場の出口付近で、関西弁の男子に捕まってしまう。
「……すみません。先生がすぐこっちにくるので、お相手出来ません。行こう。」
私は、後輩の手を引いて、迫ってきた男子から走って逃げた。
はっ はっ はっ
ある程度走って物陰に隠れた。
追って来てないか辺りを見るが、誰もいない。
ほっと息を吐くと、後輩が涙ぐんでいた。
「怖かったですね。」
「大丈夫。もう怖くないよ。宿に帰ろう。」
私は、後輩の頭を優しく撫でて、宿への帰路についた。
シャワーを浴びて、髪の毛を拭きながらパソコンを開いた。
「センパイ、私もシャワー浴びてきます。」
「うん、いってらっしゃい。」
私は同室の後輩に、笑いかけ見送った。
シャワー室が閉まって、私は自分の携帯の着信に気がついた。
『ん?』
携帯の画面をタッチすると、涼太からのSNSだった。
涼太《美空っち、無事っ?!今すぐ声聞きたいっス!!》
『え?ナニ?』
頭の中がハテナでいっぱいになった頃、後輩もシャワーを終え、部屋に帰ってきた。
「卯月センパイ、今日の編集します?」
「っ!ぁ……私、ちょっと出るね。電話してくる。帰ったらご飯に行こう。」
「はい、センパイ。」
私は携帯を持って部屋を出た。
そして、ホテルの庭に出て、ベンチに座った。