第31章 サヨナラ
[美空]
「美空!電話したのに、出ないってどーいうことっスかっ!?」
四限を終えて、昼休みに入る私の教室に、転がり込むようにきた涼太。
私は立ち上がり、彼を引っ張って、渡り廊下に出た。
「…美空?」
「心配させて、ごめんなさい。…聞いたんでしょ?昨日のこと。」
私は、涼太に頭を下げて、ゆっくり頭を上げた。
そして私は苦笑して、渡り廊下の手摺に掴まり、窓に顔を向けた。
涼太も、私の隣に並んで、窓の外を見る。
どう切り出していいか分からなくて、迷うが、意を決して、言葉を紡ぐ。
「…私ね……暫く、涼太と距離を取りたいの。」
「………え?……何で?!…………俺は嫌っス。」
涼太は顔を歪め、勢いよく私を抱き締めてきた。
「…少し、一人で頑張りたいことがあるの。だから………ごめんなさい。」
私は、胸が軋むのを感じて、瞼をギュッと閉じ、涼太の胸を押す。
「…美空。」
涼太が、私を呼んでくれる。
私はこの春からの事を思った。
最初は苗字で、次が名前に“っち”って付けられて。
あの時は、先輩だって言い張ったのに、言うこと聞いてくれなくて…。
今は、名前で呼んでくれる。
目の前の涼太が、私を特別だって見つめてくれる。
それなのに…
私はズルい。
自分から別れを言えなくて、距離を取って、別れようとしてる。
私は、最後に涼太の手を握り、彼を見上げた。
眉を寄せ、不安な顔をしている。
こんな時にも、涼太への愛しさが込み上げていて、困る。
「…バスケット。頑張って。」
最後に笑って手を離し、涼太に背を向け、渡り廊下を走った。
これでいい。
自然消滅。
後、半年したら、私は卒業するから。
早いか遅いかだったと言い聞かせて、秘密の作業場で、声を抑えて泣き崩れた。