第29章 嫌がらせと迷える心
[美空]
「おかえりなさい。」
家に帰ると、お母さんが出迎えてくれた。
今日は久しぶりの夜勤がない日だった。
「どうかしたの?顔色悪いけど。」
「ぁ……ううん、久しぶりの学校で疲れたのかも、少し上で寝てくるね。」
私は無理矢理笑みを作り、自分の部屋へ上がった。
扉を閉めて、息を吐く。
力なくベッドに倒れると、眼を閉じる。
破られた新聞。
赤い文字。
たったそれだけのことで、こんなに不安定になるなんて。
私は仰向けになり、眼を閉じ、額に片腕をつける。
私はずっと、将来は父のような写真家になりたいと思ってた。
私が高校に入って、人物を撮るよう薦めたのは、父だった。
「美空、写真家になりたいなら、人物を撮ってごらん。
お前は春から高校生になる。世界が広がるんだ。
その世界の人々を沢山撮って、将来のための準備体操をするといい。」
その父の薦めと広瀬の勧誘で、私は新聞部に入った。
いつしか学校からも、宣材写真を頼まれるようになり、今があった。
だけど
涼太に出会って
被写体の彼との距離は保たなきゃいけないって、分かっていたのに。
今でも分かっているのに。
ファインダー越しに見える、日々変わる涼太をずっと見ていたくて。
ずっと撮っていたくて。
崩れそうになっていたら、支えてあげたくて。
…なのに…それでも、涼太と繋いだ手の反対に、私はカメラを持っていたい。
涼太だけを選んで、カメラを捨てるなんて、
私には出来ない。
そう思っているこんな自分が、大嫌いで…涼太に申し訳なくて、私は声を抑えて泣いた。