第23章 無自覚の誘惑
[涼太]
今の現状が、理解出来ない。
だって、甲子園へ撮影に行ってたはずの美空っちが、今、俺の手を引いて、最寄り駅までの道を歩いてる。
強引に繋がれた手を見て、先を歩く美空っちに視線を移す。
「美空っち、なんでここにいるんスか?」
気がついたら、思ったことが口から出ていた。
すると、美空っちがこっちを振り向いた。
「傍にいて、応援したかったから。
……でも、ごめんね。
試合、最後の3秒だけしか見られなかった。全然、間に合わなかった。」
そう言って、美空っちは顔を伏せる。
「そんなことないっス。……来てくれて、ありがとう。」
「…明日から、また頑張ろうね。涼太。」
美空っちは、俺を元気付けるために、優しく笑って手を握った。
最寄り駅について、美空っちがコインロッカーから荷物を取り出していた。
「美空っち、この後、甲子園に戻らなくていいんスか?」
「少し早いけど、3日後の水泳部の撮影あるから、一時帰宅。」
笑いながら、旅行トランクをゴロゴロ持ってきた。
「そうなんスね。…持つっスよ?」
俺がトランクの持ち手を取ろうとすると、美空っちが止めた。
「ダーメ。自分の荷物は自分で持つ主義なの。」
そう言って、自分で持って改札を抜けていってしまった。
俺は、キョトンとして、頭を掻きながら苦笑して後を追うのだった。