第8章 人見知り同士
「トラ……!」
教室移動のために歩いていた彼は、背後から呼ばれて足をとめた。
「おう、研磨。どうした?」
「トラ、来て。」
孤爪は彼の腕を引っ張った。
「え、なんだよ。連れションか?」
「ちがう。いいから、はやく。」
戸惑う山本を、孤爪ははやくはやくと急かした。
先ほどの部室棟の裏まできて、孤爪は山本の背中を思い切り押した。
転びそうになりながら、山本は押しだされる形で凪沙と武田の目の前に現れた。
「うわ!なにすんだよ、あぶねえだろ!……て、は?……はあ!?」
二人の状態を目の当たりにして、山本は驚きの声を上げる。
「山本、邪魔すんなよー。」
「や、山本君、たすけて!」
同時にクラスメイトと部のマネージャーから声を掛けられて、山本はますます混乱する。
助けを求めるべく、孤爪に目を向けるが、
彼は物陰から顔だけ出して「行って」と口パクで伝えてくるだけだ。
(なんなんだよ、これ……。)
困り果てて、もう一度二人の方を向く。