第8章 人見知り同士
昼休み、お弁当を早めに食べ終えて凪沙は部室棟の方へ向かった。
(それにしても、相手は誰なんだろう。名前も書いてこないからロクな奴じゃないかもなあ。)
さっさと話しを済ませて、終わらせる。
そう心に決めて、足取り重く、指定された場所を目指す。
そこには予想通り、一人の男子生徒がいた。
壁に寄りかかってスマホをいじっていた彼は、凪沙が来たことに気付くと顔を上げた。
「あ、夜久さん。手紙読んでくれたんだね?」
凪沙は彼に対して、見たことある顔ではあるが、名前は知らないなと思った。
「俺のこと、知ってる?」
凪沙は正直に首を横に振る。
「だよね。まだ編入してきて間もないもんね。
俺、1組の武田っていうんだ。一応バスケ部のエース。背、高いでしょ。」
爽やかに笑う彼は確かに背は高いし顔も整っている。
それなりにモテるんだろうなという印象だ。
凪沙は曖昧に頷いておく。
「夜久さん、かわいいし、いろいろと有名だから。
すぐにいろんな奴に告白とかされて彼氏できちゃいそうだから、モタモタしてらんないなって思って。」
余裕の笑顔を崩さずに彼は凪沙との距離をつめた。
(優しそうな人……、でも、なんか不気味。
黒尾さんタイプかな。よく笑うけど、衛輔とは違うカンジだ。)
冷静に彼を観察しながら、凪沙は無意識に一歩下がる。
「こんなこと急に言われて、びっくりするかもしれないけど。
夜久さんのこと、好きになっちゃったんだ。俺と付き合ってくれないかな。」
流れるようにさらりと彼はそう告げた。
予想していたとはいえ、凪沙は面と向かっての初めての告白に動揺する。
目をそらして、うつむく。
(この人なんでこんな平静なの。慣れてるのかな。結構遊んでるんだろうな……。)
長い髪を耳にかけ、そのまま指先で毛先を弄びながら、凪沙はぼそぼそと声を漏らす。
「あの、私……」