第8章 人見知り同士
俯いたままそそくさと自分の席に向かう孤爪に、凪沙は声をかけることができなかった。
(今の、聞かれてたよね……。)
黙って見つめることしかできないが、彼に不快感を与えたと思うと後悔が残った。
(部活の時、あやまろう……。)
凪沙は当初よりも慣れてきたとはいえ、まだ男子に対して苦手意識はあった。
特に孤爪のような大人しいタイプには、自分から話しかけることはなかなかできない。
少し沈んだ気持ちで机の中から教科書を取り出すと、
その表紙に見覚えのないメモ用紙が付いていた。
(手紙?エリちゃんかな。さっき話してくれれば良いのに……)
さきほどの女友達の顔を思い浮かべながら、シールで張り付けられたそれを丁寧に剥がす。
“夜久凪沙さんへ。お話したいことがあるので今日のお昼休み、部室棟の裏に来てください。待ってます。”
シャーペンでそう書かれた文字は、どう見ても男子のそれだ。
(これって……。)
いくら女子校育ちといえども、これの意味することくらいは分かる。
凪沙は素早くその紙を小さくたたんでポケットに隠した。
(ああ、どうしよう。逃げたい……。)
しかし逃げればもっと面倒なことになるかもしれない。
(衛輔に相談しようかな……。
いや、でも衛輔口軽そうだから同じクラスの黒尾さんにも知られるだろうな。
そんでからかわれるか、面白がられるか……。)
うーん、と頭のなかであれこれ考える。
(ほんと、男の子ってめんどくさいな。)