第8章 人見知り同士
朝練を終えて、孤爪は急いで教室へ向かう。
上履きのかかとを踏んだまま走ってきたせいで、
教室の手前で軽くつまずいてしまった。
「うわ……っ」
なんとかバランスを持ち直して転ぶのは免れる。
「凪沙ちゃん、バレー部入ったんだって?」
教室で話す女子たちの声が耳に入る。
そう言えば凪沙の席って通路側の前の方だったな、
と思い出しながら孤爪は靴を履きなおす。
「バレー部っていうか、マネージャーだけどね。
結構楽しいよ。忙しいけど。」
凪沙は明るい声で答える。
「へー、凪沙ちゃんだったらうちのチア部入ればアイドル扱いなのに。もったいない。」
孤爪はなんとなく教室に入りにくくなってしまい、ドアの向こうの話題が過ぎ去るのを待つ。
「でもさ、バレー部といえば、うちのクラスだとあの孤爪君でしょ。
どう?あの子、部活でも暗いの?」
「うーん、どうかな……私もまだあんまりしゃべったことない……。」
「そうなんだー。凪沙ちゃん気を付けなよ。ああいうタイプって勘違いしてストーカーとかしてきそうだし。」
そこで予鈴が鳴って、おしゃべりは中断された。
孤爪はようやくドアを開ける。
「あ……。」
教室に入ったとたん、凪沙が自分に視線を向けているのが分かるが、
孤爪は気付かないふりをして自分の席に向かう。
別に凪沙を責めるつもりはなかった。怒ってもいない。
むしろ、クラスで存在感を消し切れていなかった自分に詰めの甘さを悔いた。
(やっぱり髪染めたの、失敗だったかな……。)