第6章 ひらいて
「はあ、はあ……あっぶねー!ほんとに負けるかと思った!!」
「……100メートル勝負にすれば良かった。」
助走のおかげか、スタートでリードした衛輔が必死の泳ぎで逃げ切った。
それでも凪沙はずっと追い上げていたし、
終盤は衛輔は無理な泳ぎのせいでバテ気味だったので抜くのは時間の問題だった。
「あーあ。衛輔に勝ちたかったな。」
「でもお前、泳ぐの好きそうじゃん。ちゃんと部活やればいいのに。」
「今更でしょ。それに、私は上を目指すより楽しくのんびり泳ぐのが好きなの。」
「ふーん。あ。やばい!そろそろ夕飯の時間だ。親父たちきっと待ってる!」
衛輔は壁に掛かった時計を見てあわててプールから上がった。
凪沙もプールの底を蹴りあげて上がろうとしたとき、
「ほら、行くぞ。」
そう言って衛輔が上から手を差し伸べてくれた。
(あ、男の子の腕。)
鍛えられた腕に、凪沙は一瞬だけ見惚れた。
「うん……。」
凪沙は自力で上がるのをやめて、その手を掴む。ところが
「あ、おい!ばかっ……!」
思いのほか凪沙が力を込めて引っ張ったので、
不意を突かれた衛輔はプールに引きずり込まれてしまう。
「え、ちょっと!!」
バシャーン!と、大きな音と水しぶきを立てて二人で水の中に沈んだ。