第6章 ひらいて
何往復かして、衛輔がプールサイドに上がった時、
まだ凪沙は泳ぎ続けていた。
「意外に体力あるんだなー。」
ほとんど飛沫をあげない彼女の泳ぎに見惚れる。
(あれだけ上手に泳げるなら、本気で部活やればいいのに。)
タオルで身体を拭きながら、衛輔はそう思った。
しばらくして、凪沙がプールから上がって衛輔のところへやってきた。
「なに飲んでんの?」
「ポカリ。いる?」
「うん。」
衛輔が持っていたペットボトルを渡すと、凪沙はためらいもなくそれに口をつけて飲んだ。
(あ。間接……。って、ガキか俺は。)
少しドキリとして、彼女から目を逸らす。
(こういうこと普通にできるっていうのは、何も意識してないからなんだろうな。)
嬉しいような、少し残念なような気分になる。
「冷たくておいしい。ありがと。」
「おう。」
それから凪沙は、少し挑戦的な目を向けて言った。
「ねえ、勝負しようよ。」
「は?」
「私、衛輔になら勝てる気がする。
ちょっと見た感じあんまり泳ぐの得意じゃなさそう。」
「うるせー生意気!さすがに女子にまけるかよ。」
とはいえ、さっきの彼女の泳ぎを見て、
衛輔は勝てる自信はあまりなかった。
「じゃあやろうよ。何がいい?私背泳ぎ得意で、クロール苦手。どっちがいい?」
凪沙がいじわるっぽく顔を近づけて言う。
「男はクロールだろ!」
「あー……クロールしかできないのか。」
凪沙がぷっと吹き出す。
「うるせー平泳ぎもできんだからな!
背泳ぎはまっすぐ行かねえんだよ!文句あるか!」
「ないでーす。じゃあ、やろう。はやくはやく。人来ちゃう。」
衛輔の手を掴んで急かす。
(珍しくはしゃいでんな……。)