第6章 ひらいて
一度大きく息を吐いてから、ゆっくりと口を開いた。
「広子さんはね、もう長く生きられないんだよ。」
「……え。」
衛輔は言葉を失った。
「広子さんはうちの病院の患者さんなんだよ。
俺と彼女はそこで知り合った。手術を勧めたけれど、ずっと断り続けいてね。
自分が病気だと知ったら、凪沙ちゃんがショックを受けるからって。」
「じゃあ凪沙は何も知らないのか。」
衛輔の質問に、父は頷いた。
「広子さんは凪沙ちゃんのことをとても心配しているんだよ。
彼女たちは親戚もほとんどいないらしいから、遠くない未来に自分が命を落とすことになった時に、凪沙ちゃんはどうなるのか。
守ってくれる人も、支えてくれる人も誰もいないと言っているよ。
それから、これは凪沙ちゃんには絶対に言ってほしくないんだけど、
広子さんの別れた旦那がね、凪沙ちゃんに会わせてほしいって今もずっと連絡をしてきているんだ。
今は広子さんが頑なに断り続けているけど、広子さんに何かあったら、それを機に強引に動くかもしれない。」
「まじかよ……。」
衛輔の脳裏に凪沙の額の傷跡が浮かぶ。