第5章 ゼラニウム
「ただいま!」
衛輔の父親が帰ってきたとき、二人はリビングでゲームをしていた。
「おかえり。なに、親父走って帰ってきたの?」
「おじゃましてまーす。」
二人ののんきな様子に、父は戸惑いを隠せない。
肩で息をしながら、いらっしゃい、と凪沙に声をかける。
そのあとで衛輔に向かって質問する。
「衛輔。なんだあのメールは。びっくりするだろう。
ちゃんと分かるように説明しなさい。」
「昨日部活で神奈川に行ったら偶然凪沙に会ったんだよ。
そんで雪で帰れなくなって泊めてもらって、今日はうちに招待したってわけ。」
無邪気に説明する衛輔。
「お前なあ……友達んちっていうから誰のことかと思えば……。」
はああ、と長い溜息のあとで、父はようやく落ち着きを取り戻して鞄を置いた。
「いいか、凪沙ちゃんはお嬢様なんだぞ。
お前みたいなわんぱく小僧とは違うんだからな。
ていうか広子さんはなんて言ってるんだ?」
「あ、昨日からママ出張でいないので。」
凪沙の言葉に、父は今度こそ仰天した。
「お前!広子さんいないのに向こうの家に世話になったのか!?」
「おう。だって凪沙が良いよって言うから。
なんだよ、親父だって何度も行ってるんだろ?
あ、凪沙そっち行ったらだめ、そう、こっちから、敵いるから気をつけろよ……」
衛輔は凪沙にゲームの指示を出しながら話半分といった状態だ。
「衛輔、ちょっとこれどうしよう助けて!」
「まじかよこれ研磨のデータだから最強のはずなんだけどな……。」
二人で肩を並べて仲睦まじくゲームする姿を見て、
すっかり怒る気も失せた父は、上着を脱いでからキッチンで手を洗う。
(まあ、仲良くなったみたいだし……。
やっぱり子供同士の方が打ち解けるの早かったのかもなあ。
あとで広子さんにも連絡しておかなきゃなあ。)
タオルで手を拭きながら、二人に声をかける。
「お前ら、飯まだだろ。何食べたい?
て言ってももう結構遅いからなあ。ピザでも取るか。
あ、でも凪沙ちゃんそういうのあんまり馴染ないかな。寿司のほうが良い?」
「おじさん、私ピザ好きだよー。」
凪沙が嬉しそうに返事をするので、
彼は安心して冷蔵庫に貼ってあったデリバリーのチラシを手にした。