第5章 ゼラニウム
「どうぞー。」
衛輔がドアを開けて、凪沙を通す。
「おじゃましまーす。おお……男暮らし……。」
玄関に転がった靴と廊下に積まれた荷物を眺めて凪沙はつぶやく。
「男二人暮らしだからなー。
家も古いから凪沙んちみたいに綺麗じゃないけど、まあ適当に座って。」
リビングにやってきて、凪沙はソファにちょこんと腰かけ
た。
「でも、思ったよりは綺麗かも。もっとすごいの想像してた。」
「まじで。良かった。あ、何か飲む?て言ってもペットボトルのお茶しかねえや。」
冷蔵庫から出したそれをコップに注いで凪沙に渡す。
「ありがと。おじさんは?」
「ん?今日はそんなに遅くならずに帰ってくると思うけど。
一応凪沙が来てることメールしとくか。」
衛輔はそう言ってスマホをいじり始めた。
凪沙はガサガサと自分の荷物から、何かを取り出してテーブルに並べた。
「なにしてんの?」
メールを送り終えた衛輔がそれを手に取る。
「おみやげ。昨日良い匂いって言ってたシャンプーとかトリートメントとか。」
「え。いいの?」
「うん。いっぱいあったから。」
衛輔は一つ一つ手に取って匂いを確認していく
「あ、俺この匂い好き。」
「どれ?」
衛輔の手元に凪沙が顔を近づける。
目の前で凪沙の髪がふわりと揺れて、思わずそれに手を伸ばしそうになる。
(うわ、近い……。)
衛輔がとっさに目を逸らすと、
「あ、これ私も好きなやつ。いいよね、ゼラニウムの香り。
あとねー、これも結構おすすめ……」
そう言いながら凪沙が離れたので、衛輔はほっとして、持っていたボトルをテーブルに戻す。
「俺ちょっと着替えてくる。」
少し頬が熱い気がする。
衛輔はそれを隠すように背を向けてリビングを出た。