第4章 雪の日のこと(後編)
「え。褒め言葉じゃん。どうして嫌なんだよ?」
「似てるから。」
凪沙は短く、低く答えた。
そこで衛輔はようやく理解する。
「肌が白いのも、目が二重なのも、まっすぐな髪も、爪の形も、
私の色んなところ、よく似てるって言われてきたから。」
もはや、誰に?と聞く必要もなかった。
(よっぽど憎んでるんだな……父親のことを。)
凪沙の手のひらで集められた雪は、その体温であっという間に溶けてしまう。
俯いていてその表情は衛輔には分からなかった。
「凪沙が、本当の妹だったらよかったのにな。」
衛輔がそう呟くと、凪沙は顔を上げた。
「そしたらさ、絶対そんな目にあわせなかったのに。」
衛輔の脳裏にはさっき見せられた傷跡が思い浮かぶ。
「なにも知らないくせに……。」
「でも、凪沙が大変だった時に、
そばにいて何とかしてあげたかったなとは本気で思うよ。」
(偽善……。)
そう突き放すために口を開きかけたが、
本気で悔しそうに顔を歪ませる彼に、
凪沙は否定的な言葉を向ける気にはなれなかった。
「どうして、衛輔がそんな顔するの。」
衛輔は一度息を深く吐いてから、笑顔を作った。
「寒いな。もどろっか。」
凪沙はこくりと頷いた。