第4章 雪の日のこと(後編)
「おじゃましまーす。広子さんは?遅いの?」
靴を脱いで玄関に上がる。人の気配のない家を見渡して衛輔は凪沙に聞いた。
「今日ママ出張でいないよ。あ、適当に座って。」
「は?マジかよ。俺、広子さんの留守に上がってもいいのかな。」
「別にダメとは言われてないし。」
そう言って凪沙は暖房のスイッチを入れる。
「それは、そうかもしれないけど。」
衛輔は落ち着かない様子でリビングの隅に荷物を下ろした。
「寒いね。お風呂はいる?」
「あ、俺試合の後シャワー浴びてきたから平気。」
「ふーん。じゃあ私入るから。テレビでも見てて。」
「おう。」
凪沙がリビングから出て行って、衛輔はようやく緊張が解ける。
(はあ、何緊張してんだ俺。ていうか、そうか。
さっきあの子が言ってたのはこういうことなんだろうな。
他人だった人と生活するって、やっぱり少し疲れるのかも……。)
窓の外を見ると、雪は勢いを増して降り続いていた。
(あ、親父に連絡しとかないと。)
スマホを取り出して、メールを打つ。
(雪で、電車が止まったから今夜は……)
そこで指を止める。
(今夜は、友達んとこ泊まります。)
メールを送る。
(親父のことだから、この状況知ったら車で迎えに来そうだしな。
それはちょっと面倒だし、あと、俺が帰ったらあの子一人だし……。)
それから衛輔は手持無沙汰になって、テレビをつけた。