第3章 雪の日のこと(前篇)
「引いてない。」
衛輔は逃げようとする凪沙の手を掴んだ。
「驚いたけど、引いてないから。だから逃げないで。」
「……手、放して。」
「あ、ごめん。」
凪沙の突き放すような口調に戸惑いながらも衛輔はその手を離した。
黙って席に座ったので、衛輔はほっとする。
さきほど衛輔から掴まれた手はコートを抱えながら震えていた。
「ごめん。もう絶対しない。」
「うん……。」
凪沙は低く返事をする。
「あのさ、すぐには無理かもしれないけど。とりあえず俺たち友達くらいにはなれない?」
「は?今の話聞いてた?」
「だからだよ。少しずつでいいから慣れてよ。
俺は絶対凪沙のこと傷つけないって約束するから。
それで安心できたら、兄妹でも家族でもなればいいじゃん。」
「そんな上手くいくのかな……。」
「やってみればいいじゃん。ほら、LINE教えて。
ふるふるできる?」
「……うん。」
凪沙はポケットからスマホを取り出した。