第13章 ずっと一緒
ただでさえ凪沙の格好は目立っていたし、そのうえ所謂「お姫様だっこ」で廊下を闊歩しているのだ。
注目を浴びないはずがなかった。
「衛輔、降ろして。歩けるから。」
何度も凪沙は訴えたが、衛輔は無視して足を動かした。
保健室に入ると、誰もいなかった。しかし先生を探しに行く余裕はない。
ソファに凪沙を降ろして靴を脱がせる。
「自分で脱……」
「いいから大人しくしてろ。」
有無を言わさない口調に、凪沙は黙るしかない。
裸足になった彼女をもう一度抱えて、流しの縁に座らせる。
蛇口をひねって流れる水に白い足をさらす。
「つめた……。」
「ちょっと我慢な。」
「衛輔、なんか怒ってる?」
恐る恐る凪沙が彼の顔を窺うが、彼は何も答えない。
外は日没が近くなり、照明のついていない保健室も少しずつ暗くなっていく。
沈黙のなか、水が流れる音だけが響く。
(やっぱり、衛輔、機嫌悪い……。)
背中に添えられた衛輔の手が、なぜだか知らない人のそれのように感じて凪沙は不安になる。
すっかり冷やされた足は、水の冷たさのせいで少し赤くなっている。
「先生、こないね。」
凪沙がなんでもない風を装って声を出すが、衛輔はああ、と低く返事をしただけだった。
窓の外がパッと明るくなって、二人はそちらに目を向ける。校庭に設けられた特設ステージのライトだった。
「あ、後夜祭……。」
時計を見て、凪沙はつぶやく。そして、自分が出る予定のイベントを思い出す。
「私、行かなきゃ……みんなきっと探してる。」
「その足じゃ無理だろ。」
「もう大丈夫だよ。ちゃんと冷やしたし。」
凪沙は蛇口の水を止めて、流しから降りようとする。
その時、廊下からこちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。
「きゃっ、ちょっと、衛輔!?」
「静かにしてろ。」
衛輔は凪沙の口に手を当てて、濡れた彼女の足も拭かずに再び抱き上げる。
先ほどのソファではなく、ベッドに彼女を運んで、仕切りのカーテンを引いてしまう。