第12章 敗北のあと
「ナギ、俺たちのクラス、次LL教室。間に合わなくなるよ。」
孤爪が何も聞こえなかったふりをして入り口から声をかける。
「あ、うん。待って。」
凪沙は一瞬、衛輔と黒尾を振り返ったが、すぐに孤爪の後を追って出て行った。
「大丈夫だよ。あれは事故だし、半分は俺も悪かったし。だから黒尾は普通にしてろよ。」
黒尾に向き直って衛輔がそう告げる。
「ああ……。ていうか本気だったろ。まだいてえんだけど。」
黒尾が腕をさすると、衛輔は全く気にする風でもなく
「俺らも早く行かないと遅刻だぞ。」
と、急いで教室へ向かった。
誰もいない教室に入って、孤爪と凪沙は急いで教科書を取り出す。
「ねえ、ナギ」
「なに?教科書わすれた?」
早くしないと遅刻になるよ、と急ぎながら凪沙が孤爪の席に近付く。
「ねえ、クロのこと、怖くなった?」
「え……。」
「俺には、ウソつかないでよ。ていうか、ナギのウソくらいすぐわかるし。」
孤爪は彼女の嘘もごまかしも、全部見抜く自信があった。
「研磨は、どこまで知ってるの?」
どこまで、というのは彼女の過去についてだ。
「……全部じゃないよ。この前あの男の人の件があった時に、なんとなくわかっちゃっただけ。」
「そう。」
一呼吸おいてから、口を開く。
「……ちょっとだけ、怖かった。」
肩をすくめて、彼女は困ったように笑った。
「ごめんね。」
「なんで研磨があやまるの。」
「俺がすぐそばにいたのに、怖い思いさせたから。ぶつかったのがナギじゃなくて俺だったら、何も問題なかったのに。」
凪沙は心底驚いた。
普段、二言目にはめんどくさいと零す省エネな孤爪が、こんなことを考えていたなんて。