第12章 敗北のあと
「夜久は、本当にやめるの?」
海は改めて衛輔にも問いかける。
「ちなみに俺も残ろうかと思ってる。」
そう付け足すと、少しだけ間をおいて、また別の声が部室に響いた。
「夜久さんにも、残って、ほしいです。」
芝山だった。
「まだ、リベロとして教えてほしいことたくさんありますし……。」
「そうですよ!夜久さんいなくなったら誰がリエーフのレシーブ練習担当するんですか、
俺たちには手におえませんよ!」
「レシーブ練は嫌ですけど、夜久さんも一緒に春高いきましょうよ!」
後輩から次々に言葉を投げられて、衛輔は何度か頭を掻いてから
「しょーがねーなー……。」
と内心嬉しいのが丸わかりな表情で笑って見せた。
昼休みの終わりを知らせるチャイムを聞いて、みんなそれぞれに部室を後にした。
「なーちゃん、さっき、ほんとにごめんね。」
黒尾がもう一度、凪沙に向かって謝る。部室に残るのは、黒尾、研磨、衛輔、凪沙の4人だけだ。
「もう、しつこいですよ。大丈夫だって言ってるじゃないですか。
それ以上言うと怒りますよ。」
「うん、そうなんだけどさ……。」
そう言いながら一歩近づくと、凪沙は一歩後ずさる。
黒尾は気付いていたのだ、口では気にしていないと言い張る彼女が、さっきの件以来明らかに自分と目を合わさなくなっていることに。
現に今もこうして距離をとっている。
「凪沙、見とけ。」
突然話に入ってきた衛輔が黒尾の左の二の腕に思いっきりグーパンをくらわせた。
「いってぇ!!」
完全に不意を突かれた黒尾は、声を上げて痛がる。
「これで、あいこな。」
いったい何事かと、目をまるくしている凪沙に向かって、衛輔はにいっと笑った。
「お前に手を上げた奴は、俺が絶対許さない。だから何も怖がらなくていいからな。
だから、変なこと思い出してんじゃねえよ。」
「……うん。」