第12章 敗北のあと
結局、海も駆けつけて全員集合と相成った部室で、二人の事情聴取が行われた。
ケンカの原因は、春高まで残るべきと言う黒尾と、早く後輩に部を任せて新体制にさせるべきただいう衛輔の意見の食い違いだった。
「いや、もういいよ。夜久が正しい。俺が間違ってたよ。」
黒尾がそう切り出すと、見透かしたように孤爪が口を開く。
「クロ、それ本心じゃないでしょ。」
「……。」
黒尾はなにも答えない。
「ナギ、さっきので、怪我なんてしてないよね。」
「え、うん。全然へーき。ちょっとぶつかっただけだし……あっ」
答ながら、凪沙は孤爪の言わんとしていることを察する。
ほとんど事故とはいえ、凪沙に手を上げてしまったことを悔いているのだ。
そんなことが原因で、チームの雰囲気が損なわれることを気にして、意見を翻したのだ。
しかも、黒尾は凪沙の過去を知っているからなおさらだ。
「黒尾さんが、さっきのこと気にして引退とか考えてるなら冗談じゃないって話ですからね。」
黒尾の方を見ないまま、凪沙ははっきりと告げた。
「正直、黒尾さんにはあんなことより気にしてほしいことはたくさんあります。
寝癖は全然直してこないし、リエーフにすぐウソ吹き込むし、他校の人(主に木兎さん)と悪ふざけはするし……。」
「え、ちょ、なーちゃん……?」
さすがに黒尾が不安そうに口をはさむ。
「だから、私のこととか部活のことを気にするなんて今更なんですよ。
春高めざすなら、黒尾さんにはいてもらわないと困りますし。」
ね、と山本達の方を振り返れば、彼らは戸惑いながらも頷いた。
「……。」
「クロ、返事は?」
孤爪に促されて、黒尾は漸く声を出す。
「わかったよ。ありがとう、なーちゃん。あと、さっきはごめんな。」
凪沙は膝を抱えて座ったまま、いえ、と短く答えた。