第12章 敗北のあと
4人が部室に駆けつけると、青ざめた芝山と犬岡、掴み合って言い争いをしている黒尾と衛輔の姿があった。
体格と力の差は歴然で、衛輔が壁に押しつけられている。
凪沙は、とりあえず暴力や怪我はなさそうでほっとする。
山本と福永は先輩相手にどうしていいのか途方に暮れているので、仕方なく凪沙が指示をだす。
「研磨は黒尾さんとめて。」
「えー……。」
めんどくさそうに唸りながらも、孤爪は凪沙と一緒に3年の二人に近づいて行く。
「クロ、やめなよ。」
「衛輔も、落ち着いてよ。」
怒鳴り声は静めたものの、それでも二人は睨みあったまま動かなかった。
「はなせよっ」
舌打ちを交えて、衛輔が自分を押さえつける彼を乱暴に振りほどこうとする。
その拍子に外れた黒尾の腕が、思いのほか力強く、すぐそばにいた凪沙にぶつかってしまった。
「きゃ……!」
衝撃に耐えきれずにその場に尻もちをつくと、
(あ、やばい)
次に何が起こるのか咄嗟に判断した孤爪が、素早く黒尾と衛輔の間に割って入る。
「研磨、そこどけ。」
予想通り、これまでとは比べ物にならない怒りを露わにした衛輔がいた。
もし孤爪が遮らなければ、衛輔の回し蹴りもしくは右ストレートが黒尾に直撃していたことだろう。
そうなれば取り返しがつかない。
「凪沙さん、大丈夫ですか!?」
犬岡が、彼女を助け起こして一触即発の三人から離れるように促す。
山本、福永、芝山は相変わらず狼狽えるばかりでどうしていいか分からない様子。
そのとき、その場にそぐわない能天気な声が部室に響いた。
「あー!みんなこんなとこにいた。昼練誰もいないからどうしたのかと思いましたよ!」
ドアを開けて入ってくるリエーフ。
「リエーフ!衛輔つかまえて!!」
「え、は、はいっ!!」
凪沙の声に、ほとんど脊髄反射で動くリエーフ。
「離せよ!ばかリエーフ!」
「離しちゃダメ!ちゃんと押さえてて!」
暴れる衛輔と凪沙から同時に逆の命令を受けて、リエーフは混乱するばかりだった。