第3章 雪の日のこと(前篇)
「私は、私たちはずっと二人でうまくやってきたの。幸せなの。
だからこれからもママと二人でいいから。」
言いながら、凪沙は自分でも疑問を持ち始める。
(私はそれでいいかもしれないけど、ママは?)
その思いを衛輔が代弁する。
「でもさ、広子さんは俺の親父と一緒になりたいって言ってるんだろ。
だったらそれも考えてやるべきなんじゃないの。」
「分かってるよ。でも……。」
凪沙はそう言って衛輔から目を逸らした。
「でもなんだよ。」
「男の人キライ。」
そう言われてはお手上げだと言わんばかりに衛輔はため息をついた。
すこし怒りを交えた口調になる。
「なんだよそれ。全然理屈になってねえよ。俺や親父がお前に何かしたか?」
凪沙は黙って首を横に振る。そして絞り出すように声を出す。
「……嫌なこと、言うけど。いい?」
「おう、なんだよ言ってみろよ。言わなきゃ分かんねえよ。」
「衛輔の、母親はさ……死別なんでしょ?」
意外な話の方向に、衛輔はドキリとする。