第3章 雪の日のこと(前篇)
「こんちは。」
声をかけると、凪沙は振り向いた。
「俺のこと覚えてる?」
凪沙は黙って頷く。
「どうして……。」
「部活の練習試合で。生川高校ってとこに来てたんだ。
もう帰るとこだけど。」
「ああ、生川……。このへんだもんね。」
凪沙は曖昧に話をあわせて返事をする。
「あのさ、この後少し時間ある?
親父たち抜きで、話してみたいなって思ってたんだ。」
衛輔はそう言って笑った。
嫌な感じの全くしない笑顔だ。凪沙は小さく頷いた。
「少しなら……。」
「よし、じゃあちょっと待ってて。」
衛輔は黒尾のところに戻ってきてこう言った。
「わりい、俺ちょっと寄るとこできたから、ここで解散してもいいか?」
「いいけど。あの子やっくんの何?良い関係なの?」
「クロおやじくさい。」
「親父の彼女の娘。俺は良いけどあの子デリケートそうだからちょっかい出すなよ。」
「あ、親父さん再婚するんだっけ?」
「多分な。じゃ、そういうことだから頼んだぞ。おつかれ。」
それだけ言い残して衛輔は自分の荷物を持って凪沙の元へ向かった。
「やっくんも大変だねえ。」
「だね。」
みんなは夜久の背中を見ながら頷いた。