第10章 宮城遠征
「夜久に、犬岡と付き合えばいいって言われたことがなーちゃんは嫌だったってこと?」
黒尾にそう結論付けられて、
「そう、かもしれないです。よくわかんないですけど。」
凪沙は曖昧な答しかできない。空になった缶を指で弄んでペコペコと鳴らす。
黒尾は、うーんと数秒考えてから
「やっくんとなーちゃんは、兄妹だけど普通の兄妹じゃないでしょ。
あ、別に暗い話しようってわけじゃないからね。二人の関係は特殊ってこと。」
わかる?と黒尾が確認するように凪沙の顔を見ると、彼女はコクリと頷く。
「普通の兄妹よりも遠慮があって当然で、それがちょうどいい距離感になってるように見えるんだよね。
普通はさ、兄妹なんてこの歳になったら鬱陶しくてたまんないはずじゃん。君たちにはそれがない。
だから心配したり干渉したりぶつかったりするんだと思うよ。」
ふざけも茶化しもしない黒尾は珍しい。凪沙はそう思いながら彼の言葉を受け止めた。
「俺は、二人はすごくいいコンビに見えるから。
よくケンカしてるけど、なーちゃんはやっくんのこと嫌いとは思わないだろ?」
「……たまに本気でムカツクけど。まあそうですね。」
凪沙が不本意そうにつぶやくと、黒尾は声を出して笑った。