第10章 宮城遠征
「はいどうぞ。」
自販機で本当になっちゃんのボタンを押して、それを凪沙の手に持たせる。
「ありがとうございます。」
どういたしまして、と黒尾は答えながら自分の分のジュースも買ってベンチに腰かけた。
「座れば?」
促されて、凪沙は一人分間を空けて彼の隣りに座った。
「すげえ警戒されてんのね俺。」
「だって執行猶予中じゃないですか。」
冷静に凪沙が指摘する。
「その件はすいませんでした。」
「冗談ですよ。もう怒ってません。でも寝起きの黒尾さんには今後一切近づかないんで。」
プシュと音を立てて缶を開けてジュースを飲むと、口の中で甘ったるい子供だましのオレンジの味が広がった。
「衛輔は、困ったことがあったら何でも俺に言えっていうけど、
衛輔自身に困らされたときはどうすればいいんですかね。」
両手で握った缶に視線を落として、凪沙はつぶやいた。
「はいはいどうぞ。何でも聞きますよ。」
ニヤニヤ笑いはいつもの通りだが、その口調からは茶化しは感じられなくて、凪沙は先ほどのことを話し始めた。