第10章 宮城遠征
薄暗い廊下をパタパタと走っていた凪沙は曲がり角で何者かと衝突しそうになった。
「きゃ!」
「うわ、びっくりした。廊下走ったら危ないよ。」
持ち前の反射神経で、ぶつかりそうになった彼女の身体を支えて黒尾は言った。
「す、すいません……。」
凪沙は息を切らしながら謝る。黒尾ははっとしてすぐにその手を離す。
「あ、何もしない何もしない。だからやっくん呼ばないで。あいつの飛び蹴り容赦ないから。」
キョロキョロと見渡して、衛輔の姿がないのが分かると黒尾は表情を緩めた。
先日の朝の一件から、黒尾は凪沙に必要以上に接触することを禁止されていたのだ。
「なんかあったの?」
凪沙の表情が暗いことに気付いて、黒尾が聞く。
「衛輔と、ケンカしたかも……。」
気まずそうに凪沙が声を漏らせば、黒尾はやれやれと頭を掻いた。
「のど渇いてない?なっちゃんになっちゃんを買ってあげよう。」
おいでおいで、と黒尾は手招きして自販機のある1階へ向かった。
「それは、ちょっとくだらなすぎますね。」
凪沙は力が抜けてふっと笑って彼の後をついて行った。