第10章 宮城遠征
凪沙が合宿所に戻って、買ってきた物を整理していたら衛輔がやってきた。
「おかえり。どだった?」
「衛輔の言っていた意味は分かったよ。」
凪沙は空になったレジ袋を丁寧にたたんでいる。
「え。犬岡となんかあった?」
「好きだって言われた。」
「は!?」
動揺した衛輔が凪沙の肩を掴む。
「そんで、お前なんて答えたんだ?」
「いや、特に何も……。返事はいらないって言われたし。」
衛輔の勢いにびっくりした凪沙は目を瞬かせる。
「でも、嫌な感じはしなかった。犬岡ってやっぱりすごくいい子だね。」
ちょっとおバカだけど、と彼女は小さく笑った。
その様子に、苛立ちを覚える衛輔。
「なにヘラヘラしてんだよ。そんなに犬岡が好きなら付き合えばいいじゃん。」
「なに怒ってんの?」
凪沙は不思議そうに彼を見上げる。
「べつに怒ってねえよ。
くだらない男にひっかかるよりは犬岡みたいな奴のほうがいいんじゃねえのお前も気に入ってるみたいだし。」
衛輔は目をそらしてわざと意地悪く言い放つ。
その言葉が何故だかチクリと刺さって、凪沙は胸に手を当てる。
「なんでそんなこと言うの。」
いつものように生意気に反論してくると思っていた衛輔は、
その弱々しい声に不意を突かれる。
「凪沙?」
「なんでか分かんないけど、衛輔にそんなこと言われるのすごくイヤ。」
凪沙は唇をキュッと結んで、その整った顔を歪ませた。
初めて見るその表情に衛輔はドキリとする。
「衛輔のばかっ」
言葉にできない胸の痛みとモヤモヤを理不尽な言葉で彼に発散する。
「はあ!?」
突然ばか呼ばわりされて意味が分からない衛輔は、すぐに凪沙を捕まえて取っちめようとするが、
彼女はそれよりも早く背を向けて逃げて行ってしまった。
(なんだよ!ていうか……さっきの顔は、ずるすぎるだろ……。)
衛輔は、心なしか火照った頬を腕で擦ってごまかした。