第10章 宮城遠征
「え……。」
凪沙は何も答えられずにその場に固まる。
犬岡もそれに合わせて立ち止まる。
「ただ、俺が言いたかっただけなんで。返事とか、いいです。
これまで通りでお願いします。急にこんなこと言ってすいませんでした!」
そう言って彼は凪沙にぺこりと頭を下げた。
「そんな……私こそ、なんかごめん。こういうの慣れてなくて、なんて言っていいかわからない……。」
申し訳なさそうに凪沙が声を漏らす。
「いいんです。でも俺、今は全然敵わないっすけど、絶対夜久さんより良い男になってみせますんで。
見ててください!」
「え。なんで衛輔?」
突然話が意図しない方向に向かって、凪沙は不思議に思う。
「黒尾さんが、凪沙さんのこと好きだったら、夜久さんを超えなきゃだめだって言ってたんで!」
「なにそれ……。」
また黒尾さんが適当なこと言ったな……。と、凪沙は内心呆れて曖昧に笑っておいた。
「夜久さんかっこいいですよね!しっかりしてて、なんだかおしゃれだし。
バレーも上手くて。俺もあんな男になりたいっす!」
そしたらもう一回告白しますんで、と付け加えて犬岡はニコニコと笑った。
いつもの調子に戻った犬岡に、凪沙はほっとする。
「帰ろう。あんま遅くなるとみんな心配するよ。」
凪沙に促されて、犬岡ははい!と大きな声で返事をした。
(衛輔が気を付けろって言ってたのってこのことか……。)
気になっていたことが解決して、凪沙は気持ちが軽くなった。