第10章 宮城遠征
黒尾と孤爪の会話に気付かない山本が話を進める。
「まさか芝山の口からそれが聞けるとは思わなかったが、その通りだ。
凪沙は確かに美少女だが、エロスが足りない……。
もし烏野にそれを補って余りあるような女子マネがいたら……俺は!俺は許さん!!」
荒ぶる山本が窓を開けて何かを叫ぼうとしたとき
「買い出し行くけど、ほしいものあるー?」
凪沙が大部屋に入ってきた。
空気を読んだ犬岡と黒尾が、二人がかりで山本を取り押さえて口をふさぐ。
何を叫ぼうとしたのか分からないが、凪沙に聞かせるべき内容ではないことは間違いなかったからだ。
「な、なにしてんの……?」
「知らない。遊んでんじゃない。」
山本に抱きつく犬岡と黒尾という異様な光景を目にして、凪沙が引き気味に聞けば、孤爪が知らん顔で答えた。
「ナギ、買い出し行くなら電池買ってきて。ストップウォッチのがきれてた。」
孤爪が指示すると、黒尾が山本を押さえつけたまま声を上げる。
「あと、靴下買ってきてくれ。山本がずっと同じの履いてて臭いんだわ。」
「黒尾さん!それ内緒だって言ったじゃないすか!」
山本は顔を赤くして恥ずかしがる。
それからみんながあれこれと頼んできたので、凪沙はそれをスマホにメモしながら聞いた。
「うーん、結構大荷物になりそうだなあ。コーチに車出してもらおうかな……。」
「コーチ、さっきお酒飲んでたから運転できないと思いますよ?」
芝山がそう言うと、犬岡がすかさず手を上げる。
「はいはい!じゃあ俺一緒に行きます。荷物持つの手伝いますよ!」
夜道に一人では危ないですし、とさっそく上着を着て準備を始める。
“犬岡には気を付けろよ。”
凪沙は、衛輔の言葉が脳裏をよぎったが、幸か不幸か衛輔の姿は見当たらない。
(犬岡は良い子なんだから。黒尾さんとは違うよ。)
犬岡に、さあ行きましょう!と促されて凪沙は一緒に買い出しに出かけた。