第10章 宮城遠征
「私ね、もっといろんなことできるようになりたいんだ。」
「マネージャー的なこと?それで最近俺にテーピング教えろって言って来たのか。」
衛輔は納得する。うん、と凪沙は小さく答えてから、足元に視線を落とした。
「私、女の子一人だし、なんだかんだでみんな、遠慮みたいなのあるでしょ。
そりゃ全部みんなと同じようにはできないけど、でも、みんなをサポートするためにいるのに、いつまでもお客様扱いは、嫌だなって思う。」
少しだけ大きい上着の袖から手を出して、後ろ手に組む。
「そんな焦んなくても、少しずつで良いんだよ。凪沙がいて、良かったなってみんな思ってるよ。
まあ、やる気があるのはいいことだし、俺で良かったら何でも聞けよ。」
だから大丈夫、と言葉を添えて彼女の背中を叩いてやる。
「みんな優しいし話しやすいし、楽しい。」
ふふっと笑った彼女の横顔に、衛輔はそれとなく忠告をする。
「あ、一応犬岡には気を付けろよ。」
衛輔は、新幹線での出来事を思い出していた。
(犬岡は、たぶん凪沙のことを本気で好きだ。)
喉まででかかった言葉を飲み込む。
凪沙は意味が分からないといった様子で目を丸くする。
「……犬岡は良い子だよ。」
部員の中で特に話しやすくて仲のいい犬岡について言われたことが、凪沙は面白くなかった。